ほぼ、10数年ぶりのNYに来ています。
もちろん、それは9.11以前。私が著作『クラブカルチャー!』
に至るきっかけとなった、サトシトミイエをフューチャーしNYのクラブシーンを取材したmooksのお仕事以来。今回は、現在、commmonsで絶賛連載中、坂本龍一さんとの対論「男女公論」を教授の本拠地であるNYにお尋ねしたという次第。
東京→NYの時差ぼけは、世界最強で、本日はフライデーナイト(by ZAZEN BOYS)なのに、夕方、中華街で粥を食べた瞬間に事切れて、夜中の三時に目が覚めちゃって、ホテルから徒歩3分、24時間営業のマイ仕事場インNYである<Gramarcy Cafe>のお気に入りコーナーでこれを書いています。さっきから、ガラス張りの外には夜遊びに繰り出している、男女が通り過ぎるのですが、ナイトライフ仕様の彼女たちはこの寒空の下に、生足ばっちりのムチムチプリン(体重60キロ以上)、ボティコン姿。そういうヤカラたちが、一人は、お姫様抱っこ、一人はおんぶされて横の歩道を走り抜けて! いきましたが、さすがに『ブローバック・マウンテン』の国の男の足腰と精神(特に)は強いなあ、と、ここでのお気に入りの「目玉焼き二つとコンビーフハッシュ」を食べながら思いました。
「ニューヨークに遊びにきてよ」と言われ、「今回は、いっしょにクラブにも行ってみるかな?」とも言われたのに、教授、映画音楽の締め切りがガーンと早まってしまい、そんな余裕は全くなしの缶詰状態。しかし、「いつもは午後からまったり仕事を開始して、夕方シャンパン飲んだら、あとは仕事しない」モードを「朝6時から起きて、今日三曲仕上げちゃった」という戦時下モードに切り替えていただき、3nightに渡るディナートークを繰り広げていただいきましたぜ。
毎日、夜七時になると教授のアトリエに行って、そこから徒歩圏内にある、教授のリコメン店に出向くのです。
教授の半地下のアトリエは、奥に細長く広く、ちょっと京都の町屋みたい。モノが散逸するカオス混乱型か、整理整頓派か、と興味津々でしたが、教授は後者。CDやモノは確かに多いのですが、それは壁面の膨大な収納棚に治まり、インスタレーションみたいに、ウーリッツァーやローズやチェレステなどの鍵盤楽器が配置されている。作業机は一番奥で、コンピューターのとなりに手書きのスコアが置いてありました。
初日は、ヴィレッジにある、とあるイタリアンカフェ・レストラン(ここは、教授の行きつけ食事どころなのであえて名を伏す)。「NY、実はイタリアンに美味しいところなし」という話を裏切る、気の利いた美味しさ。ハニーローストのグリルチキンは秀逸。ローズマリー風味の子羊など、ぴったりと味が決まっている。サービスのアジア系の美男子ちゃんは、タコの入れ墨を腕に入れていてセクシー。
二日目は人気日本食レストランの<EN>。「キルビル」以降の日本風のデフォルトとなった、階段&吹き抜けのシアトリカル空間ですが、ここはディテールに抜かりがなく、非常に完成度が高い。
びっくりしたのが、料理のクオリティーで、お手製のからすみやタケノコの刺身、自家製のくみ上げ豆腐などの志ありかつ手間のかかるものが並びます。このあたりは、わりとインターナショナルにも膾炙できるメニューですが、それとともにブリの煮付けなど、も出していて、その味はまったくもって、日本のグルメうるさ型水準。日本にいて、年々感じるのですが、海外から来る人たちの”日本の味”に関する教養は格段に上がっており、また、「知らない味に対して積極的であることがクール」という強迫観念もあるのか、かつての食に対する保守性をブレイクスルーして、数々の食べ物に果敢に挑んでくる。そういったニューヨーカーたちの嗜好の変化が、現場として理解できるような体験でした。
その確かな証拠に、ここでは、なんと「まかない」というイベントをやったそうで、カマの煮付けやうなぎの骨の素揚げなどが大人気だそう。生卵はサルモネラ菌の問題でアメリカでは御法度だと言いますが、こうなったら、もうちょっとでニューヨーカーたち、「卵かけごはん」の域まで行ってしまうかも。
日本のビールとして勧められたのが、「ニッボニア」。教授によると、こちらで凄い人気だというので飲んでみると、白ベルギー系でとっても美味しい。ラベルの裏をみるとそこには木内酒造の文字が! ここの社長とは、昔、美人寿司関係で会った事があるのですが、アメリカ展開を熱く語ってくれた事を思い出し、その有言実行ぶりに脱帽です。
なんとこのオーナーは、まだ40代前後とおみうけするYo Reikaさん。赤塚りえ子さんにもにた細身のナチュラルな感じは、よくテレビでやっている「私はハードなニューヨークでバリバリやってます」系の真逆で、自分のやりたいことをそのままやってみたらこうなった、というような雰囲気。こういった自然体の成功者、しかも、カフェレベルではない、高級店を実現してしまうことを考えると、女性にとって成功に至るハードな環境はもしかして、日本の方かも、なーんて思いましたよ。
三日目はこれまた、ヴィレッジにある<TAKASHI>。
ガラス張りでオープンキッチンの今時仕様ですが、テーブルは日本の焼き肉屋のように小さくて、横の黒板書きなんかの雰囲気はひょっとすると、下北沢なんかにありそう。ここも流行っていて、予約がなかなかとれないらしい。
「よろしくお願いします。たか子」です。と自己紹介してくれた店主のたかしさん(Tシャツとボディーがステキなハンサムガイ)は、この店を開いてまだ1年足らず。教授はニューヨークタイムスで店のレビューを発見して来店して、その旨さに仰天したんだそう。「肉も凄いが、キムチやナムルが絶品」との教授の言葉通りで、大阪でまだ現役で店を切り盛りしているおばあちゃんのレシピなるキムチは、唐辛子の味が重層的で激旨。そして、ナムルは日本での定番ぜんまい系(私はこれがちょっと苦手)ではなく、生フェンネルやトマトなどのこちらのフレッシュな野菜を使ったもので、ナムルの固定概念を超える味。焼き肉は日本で完全に根付いていますが、こういった形のホームメイドから地続きのカフェ感覚の店は無いよな、と、この分野の新たな可能性を実感したのでした。
そして、ここでは横で焼き肉をつつくカップルに注目。
女性の方は背が高く美人でモデル風なのですが、どうも。メイクの濃さとか、オールドスクールな髪型などが”とんちんかん”。着用のミニドレスには異様な肩パッドが入っていて、ブレードランナーのレイチェルみたい。
教授と話し合って出した結論は「アレはどっかの小国の王女様で、今はお忍びで街場の焼き肉屋に来ているに違いない」というもの。まあ、ローマの休日ってことですが、男の方はノーネクタイの白シャツの襟を開けている精力的な中近東美男。この、二人の強烈なオーラは、かつて麻布十番のレストランで、某歌舞伎一家の会食を見たときと同様であり、謎は深まります。
ここでの熱い三日間のトークは、随時、commmons連載の「男女公論」に発表されますので、ご期待のほどを。
あとは、雑誌「ゲーテ」の連載ね。
食に関して言えば、同時期に偶然NYに来ていた、編集者の菅付雅信クンと一緒に食べた、人気のパン屋がやっているピザ屋の<CO>も素晴らしかったですね。彼はなぜだか昔から、「私にうまいピザ屋の情報をもたらす男」として存在していて、実はこの正月にも、不動前に新しくできたピザ屋に行ったばっかり。菅付といえば、ピザ、ピザと言えば菅付。
そういえば、初めてNYに行ったときもなぜだか、現地に彼がいて、一緒に夜の街を遊び回った事を思い出しましたよ。実はこのとき、私は初めてのNYクラブ体験をしていて、今は無き<シェルター>の名パーティー「Body&Soul」に連れていってもらったのです。しかも、彼は途中で帰ってしまい(後から、探したけどいないので先に帰ったと思った、とのこと)、私はソファーでガン寝した後に、そこがどこかもわからずに、朝のNYをとぼとぼホテルまで帰ったのでした。
NY焼き肉の新名所「TAKASHI」のたか子と教授と!
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