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執筆者の写真湯山玲子

「カンテサンス」ミシュラン三つ星祝! と憂鬱と

 4ヶ月のブログ再開のネタは、たった今報が入った「カンテサンス」三つ星取得でございます。

 つい一週間前の今日のこの日、私は上野千鶴子先生をお連れしての素晴らしいディナーを彼の店で楽しんでおり(「おひとりさまの老後」を出版なさった上野さんが御本を送って下さり、そのご縁で会食になったのだ)、そのご報告などを、と思っていた矢先の報である。

 いやー、たった今私は「ある価値を発見した人が、それがブレイクした場合、猛烈に襲われる嫉妬心と不安」というものを生まれて初めて経験して、その紅蓮の炎で身も心も焼け死にそうだ、といっていいでしょう! 第一発見者としての憂鬱は今までも、飴屋法水の東京グランギニョールやWAHAHA本舗、ピチカートファイヴのファーストアルバムといろいろあるが、今度はまた格別だ。だって、ミシュランだもの。

 私は男女関係の嫉妬というものにほとんど感心がない人間なのだが、今度ばかりは「彼女がスターになってみんなにちやほやされることを、逆恨みする男」やもっと言っちゃうと、「娘が自分よりカッコいい男と結婚することになって、表向きは嬉しいんだけど、影でヤケ酒をあおる父親」の感じがイタイほど身にしみる。

 権威主義といってしまえば、それまでだが、この「カンテサンス」本当に何の評判もグルメ界に立っていない時に行って、大驚愕。 ことあれば、行き着けて、人にもひとり宣伝員と化して、ラウドスピーカーしていた特別のレストランだからだ。

 私は当時連載を担当していた、カーサブルータスの覆面グルメページでこの店の開店早々、なーんの情報もなく、いや、どちらかといえばオーナーがヤンエグ系らしいということでマイナス情報の所に行って、その独創性とおいしさに驚きそうとうな、大讃辞を寄せたのだが、周囲のグルメ関係者は「ちょっと、アイディアに走り過ぎじゃない?」などと案外つれない意見を述べていたものだ。(「これでもかって感じで、疲れる」という批判も耳にしたが、こういう人たちには、私、湯山のカラオケでのボヘミアン・ラブソティー→ツェッペリンのブラッグドッグメドレーをぜひきかせてやりたいものだ。疲れる、ということの真の意味がわかるだろう!)これをきっかけに、彼らの評価は逆転だろう。それが、愛すべき人間の常、というものなんだろうけど、何だかそれを考えるとまたまた、めらめらと心に炎が揺らめきたつ。

 菊地成孔さんの対談やら、日藝の授業なんかで、「エルブジ以降の、知覚&薬理の実験的になったフランス料理新世代の中では多分フランスを超えて一番」とまで言い切っていた私。(昨年、ちょいフランスに行ってグルメツアーをした経験とアラン・デュカスのフードフランス一連の感想というものを分母として、にすぎないけれど)  「カンテサンス、絶対いくべき! なぜなら~」で始まる私の長舌リコメンドも、今後は「だってミシュランの三つ星だから」で済んでしまうのが、口惜しい。

 金に任せて世界中で美味しいモノを食べている、ウィーンとイギリスの現代美術家、ジェラティーンのアリとケリス・エヴァンスも今年の初夏に連れて行ったけれど、「はっきり言って最近のフランス料理の中では、エクセレントに旨い!」って、泣きそうだったっけ。彼らにもメールでこの快挙は伝えておくが、フランスのアート界でも顔の広い彼ら、もしかしたら、そんな話を彼の国でしてたかもね。

 それにしても、ミシュラン。  「女ひとり寿司」でロラン・バルトの「表徴の帝国」を引き合いに出してまで苦い絶賛をした「すきやばし次郎」といい(苦い、というのは、三十分二万五千円のステキな料金と、この旨さは一流寿司屋で食べ付けてないと絶対わからない類のものだから)、この「カンテサンス」といい、ちょっとびっくりするほどの本物感だ。二つ星にやはり、私が驚愕した「ピエール・ガニエール」も入っていたし。  マイ・フランチャイズ、ベスト寿司屋の「あら揮」が入っていなかったのは、ちょっと、意見を聞きたい気もするが、まあ、いいや。「カンテサンス」との二重ショックは心臓に悪い。

 これから、予約、確実に取りにくくなるでしょうね。

 ちなみに一週間前の来店のヒットは、「フォアグラとメロンのコンビネーション」。ああ今でも、口の中にあの味の記憶が再現できる・・・・。

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